福岡ソフトバンクホークスに所属していた田浦文丸(たうら ふみまる)投手は、168cmの小柄な身体から繰り出す“世界一級”のチェンジアップを武器に、幾度となく強打者を封じてきました。高校時代に「世界のTAURA」として衝撃を与えてから、プロで経験した挫折と進化、そして再び訪れた試練まで、その濃密な野球人生を深掘りします。
田浦文丸 選手 プロフィール
田浦選手は、1999年生まれの技巧派左腕です。
• 出身地: 福岡県大野城市
• 投打: 左投げ・左打ち
• 身長・体重: 168cm / 78kg
• 最終所属: 福岡ソフトバンクホークス(背番号56)
• プロ入り: 2017年ドラフト5位
「世界」を震撼させたチェンジアップの秘密
田浦投手のキャリアを語る上で、最大のアイデンティティとなっているのが、そのチェンジアップです。これは単なる緩い球ではなく、打者の手元で鋭く変化する魔球として知られています。
1. 驚異的な落差と軌道
田浦投手のチェンジアップは、ストレートと同じ腕の振りから繰り出されながらも、手元で急激に沈み込むのが特徴です。その変化の仕方は、MLBの最強クローザー、デビン・ウィリアムズ投手の**「エアベンダー」に匹敵するとも評されるほど。スロー映像で見ると、ボールにストレートと反対の回転**がかかっていることが分かり、打者にとっては浮き上がってくるように見えた直後に落ちる、予測不能な軌道を描きます。
2. ダルビッシュ絶賛の独自技術
プロ初登板でこの魔球を披露した際、ダルビッシュ有投手がその技術を絶賛しました。一般的なチェンジアップと比べ、リリース時に指先がボールに加える力の抜き方が特殊であり、**「自分なら一球で肩がもげる」**とまで言わしめたほど、田浦投手の手首の強さと器用さが詰まった独自性の高い変化球です。
3. 緩急とコンビネーション
田浦投手は身長が小柄である点を不利とは捉えず、最速148km/hのストレートと、このチェンジアップの極端な緩急を徹底して使います。また、回転数の高いキレのあるスライダーも組み合わせることで、打者に球種を絞らせず、小柄さを感じさせない技巧派として確立しました。
プロでの波瀾と進化の背景
U-18W杯での酷使がプロ入り後の故障に繋がった可能性も指摘されるなど、田浦投手のプロキャリアは順風満帆ではありませんでした。しかし、彼はその度に壁を乗り越えてきました。
1. 2年目の大きな挫折
プロ2年目には一軍登板を果たしますが、その直後に二軍で制球を乱し、一時は防御率が7点台にまで悪化しました。この時期、彼は「思ったより通用しなかった」「今、何か余裕がない」と口にするなど、野球人生で初めて大きな挫折を経験しました。この経験が、彼をプロの世界で生き抜くための探求に向かわせる原動力となりました。
2. 和田毅投手との出会い
2023年シーズンに向けて、彼はチームの大先輩である和田毅投手と初めて自主トレを共にしました。この自主トレで、特にランニングなどの下半身トレーニングについて多くを学び、それが投球フォームの安定とストレートの球威アップに直結しました。このストレートの質の向上により、生命線である変化球がさらに活きるという好循環を生み出しました。
3. 強心臓から「あえて緊張」へ
高校時代から「強心臓」と評されてきましたが、プロでは「あえて緊張してマウンドに上がる」という独自のスタイルを編み出しました。この緊張感を持つことで集中力が研ぎ澄まされ、それが安定したピッチングに繋がると語っています。このメンタルのコントロール術も、彼がリリーフとして大舞台で活躍できた要因です。
最後に:再び輝くための挑戦
2023年にはキャリアハイの45試合登板を果たすも、2025年シーズンは怪我の影響で一軍登板なしに終わり、支配下契約の戦力外通告を受けました。
しかし、彼の持つ「世界レベルの魔球」と、プロで幾多の壁を乗り越えてきた粘り強さは間違いなく一流です。育成契約の打診の報道もあり、再び支配下を勝ち取り、あのチェンジアップで強打者を翻弄する姿をマウンドで見せてくれるか、今後の挑戦に注目が集まります。
コメントを残す