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 世紀のフェイクニュース:「スパゲッティの木」がメディア史に残した衝撃

1957年4月1日、イギリスの国民は、その日一日中、あるニュースについて話し続けました。それは、権威あるBBCのニュース番組で報じられた、「スイスでスパゲッティの木が大豊作を迎えた」という驚くべきニュースです。

このジョークは、単なる笑い話として終わらず、放送から半世紀以上経った今でも語り継がれる、メディアと社会の関係を示す歴史的な事例となっています。

🏛️ 史上最も成功したエイプリルフールのジョーク

「スパゲッティの木」が持つ歴史的価値の核心は、その比類なき成功率と社会への影響力にあります。

このウソは、当時イギリスで最も信頼されていたBBCのドキュメンタリー番組『パノラマ』によって、著名なキャスターが真面目なトーンで報道されました。穏やかな冬や「スパゲッティゾウムシ」の駆除成功といった、一見もっともらしい設定が加わり、多くの視聴者がその映像を事実だと信じ込みました。

なぜ、これほどまでに信じられたのでしょうか?それは、当時のイギリスでスパゲッティがまだ珍しい食品であり、製造工程(小麦粉から作られること)を知らない人が多かったからです。情報と知識のギャップを、メディアの権威性が見事に埋め、視聴者を騙すことに成功しました。

📺 メディアの力と信頼性への警鐘

このエピソードは、新しい時代の到来を告げるテレビメディアの力を、皮肉な形で証明しました。

当時の視聴者は、テレビを通して伝えられる情報、特にBBCのような公的機関からの情報を疑うすべを知りませんでした。このジョークが歴史的価値を持つ最大の理由の一つは、視聴者が情報源を無批判に受け入れた結果、虚偽の情報(フェイクニュース)が社会に与える影響を明確に示した点にあります。

現代において、インターネットやSNSで虚偽の情報が瞬時に拡散される問題が指摘されていますが、「スパゲッティの木」は、その現象の初期の、そして最も有名な事例として位置づけられます。これは、現代のメディアリテラシー教育において、**「メディアが伝えることの真偽を自分で判断することの重要性」**を示す、不朽の教訓となっています。

🍝 文化とユーモアの遺産

ジョークの後のエピソードも、その価値を高めています。

BBCには「スパゲッティの木の育て方を教えてほしい」という問い合わせが殺到しました。これに対し、BBCの職員は「スパゲッティの芽が出たら、それを缶詰に植えて育ててみるのがよろしいでしょう」という、ジョークを貫いた粋な返答をしました。

このユーモラスなやり取りは、人々に笑いを提供しただけでなく、スパゲッティという食品の認知度を一気に高めました。結果として、このウソがイギリス国内でのイタリア料理やパスタの普及に間接的に貢献したという見方すらあります。

現在も、この白黒の映像はBBCのアーカイブに大切に保存され、エイプリルフールの特集やメディア論の場で繰り返し引用されています。それは、「スパゲッティの木」が単なる過去の笑い話ではなく、メディアと社会、そしてユーモアの歴史を刻んだ、重要な文化遺産であることの具体的な証明なのです。

kinsyachi

トヨタディーラーで10年営業マンを経験。 その後、現職である保険代理店へと転職。 ディーラーにいたからこそわかるお得な買い方を伝授します! 最近は神社仏閣めぐりに毎週のように出かけ、御朱印集めにはまってます。